市販『流通品の中でも、最も初期から使用者の多い、軟鉄製ロック・ピトン』
1999年の夏の終わりに、イタリア北部『メロ−渓谷』にて地元のクライマ−達からの『地酒の歓待・時』に見せて貰った、古い時代に自作して、実際のクライミングで使われていた『2種類のロック・ピトン』鋳造品。
現地での交流で、こういった古いクライミング用具や写真、そして教会に保存されている絵画や資料を見れる機会は、中々に楽しみ。そして、国は違えど『クライミング用具』を、通した会話には古き良き時代の、同じ郷愁感や尊敬心からコミュニケ−ションが計れて、更に楽しい。
ある程度は曲がるが、折れないという金属特性が利点である
『軟鉄製ロック・ピトン』の歴史は、クライミングの発展と共に進化
して来て、最も初期の牛小屋の丸杭に似た単純な鉄製品の棒
から徐々に鋳造技術や鍛造技術によって洗練された形状へと
形や用途別にも進化し、各国特有の「ピトン」が登場し来た。

『ナイフブレ−ド』の様に、極細クラック(リス)まで使えるほどの
薄く、尖ったピトンは、この種の軟鉄製ピトンでは殆ど見受けら
れないが、カシン等には一時期・浅く打ち込めて石灰岩の窪み
などでも使える『小型ピトン』は製造されていた。
シャルレが欧州メ−カ−として、アメリカのシュィナ−ド・モデルに
影響を受けてか、同時期なのかは判らないがクロモリ鋼ピトンを
造り始めたが『ピトンの形状』は、それ以前の軟鉄製の縦・横に
兼用して使えるようなユニバ−サルと呼ばれたタイプを素材のみ
を変えた製品だった。リバノスと名称も過去の歴史を充分に感じ
る名前であった。欧州での高鋼材・クロモリ等を使った各種用具
特に『ロック・ピトン』は、シャモニ−周辺のクラックに適合した物か
ら各地に普及して行ったが、後に同じクラック・サイズにチヨック類
が充分に使用できると証明されてからは、徐々に英国・欧州圏内
では、より薄く強い小型ピトンの需要が高まり出して、基本・標準
的な、これまでのロック・クライミング用のピトンの開発や進化の
スピ−ドは減退していって、この種類の軟鉄製ピトンで何か特別
新しい『タイプ』が、登場する事も無くなり出した。
西部アルプス・『ドロミテ』の石灰岩・岩壁でのロック・クライミングに最も
適した、クラックに食い込み易く、複雑なクラック内部でのピトン自体の
適合が良い事から、普及して言った『CASSIN』の軟鉄ピトン。
20世紀のクライミング史の中で、最も代表的なクライミング用具を
造り出していた、初期の『クライミング・ギア・メ−カ−』

世界中で最も、多種類・多数の『ロック・ピトン』を造り出した。
日本国内で、70年代までに製作・市販された『ロック・ピトン』類は
例外なく全て、この『CASSIN』モデルの模倣品と言える。

後に、日本の岩場に適したピトン自体の刃部分の長さを短くして
接触抵抗を強める為に「刃部=ブレ−ド」に波状加工を施した俗に
『ウェ−ブ・ハ−ケン』と、呼ばれるタイプが登場したが、この改良
意外に、軟鉄製品の「ロック・ピトン」で更なる改良・改善が進んだ
のは、クロモリ鋼材の「ロック・ピトン」が普及して、目的別に種類
を変えたいクライマ−が欲求を強め出し、欧州品ピトンも軟鉄製品
のピトン類が、ある程度はアイディアも出尽くした感が見られだして
からで、数多くのメ−カ−が『ロック・ピトン』を製造していたが80年
代・以降から特に画期的な『ピトン』は、岩用としては出現していない
『リング付きロック・ピトン』は、初期の使用で懸垂下降・時に直接・下降
ロ−プを通せる使用目的の利便性が、強調されていた。
実際には、通常の大きさ・サイズの『このリング・ピトン』1本が、下降時
に使用される例は、多くは無くて大抵の場面では『専用品』の大型タイプ
が岩場に残置される事が多かった。

また、直接的なエイドクライミングの前段階で『付属リング』を、直接的に
ホ−ルドとして使い易い点などにも利点が認められ、小型のリング・ピトン
は、当時の他タイプのピトンと比べて、浅いクラックに使うのに荷重方向
への『梃子モ−メント』が、少なくなる点で有利・安全だとも理解されていた。
現在の様に、クロモリ鋼・ピトンで途中までしか杯らなった場合はピトンに
スリング類を巻き付けて『タイオフ』するという、技術が一般的ではなかった
頃には、この利点は高く評価されていた。

初期の『ロック・ピトン』は単純な形状だったが、クライマ−の使用範囲が
間接的な補助手段としてのピトン使用から、より積極的な使用方法と様々な
岩場で、使われるようになってサイズや厚み、長さ等が異なり素材もピトン
自体の硬さで変るタイプが増加していった。
『ロック・ピトン』のデザイン的な特徴は、1920年代に現在普及
しているタイプと殆ど同じタイプが登場していて、50年代には各国
で標準的なタイプが製造されていた。
基本形は最も初期の横型・縦型と称された二つのタイプだが両方
の利用目的を一つのピトンで補える、『兼用型』とも呼ばれた形状
のピトンも欧州メ−カ−から誕生している。

後の「サラテ」「シュィナ−ド」に引き継がれる『ロック・ピトン』の原形
は、意外と古い時代の兼用型ピトンのデザィンに見て取れる。

石灰岩での積極的な使用から、徐々に極細(シン・クラック)での利用
が増え出して、クラック内部でのピトン自体の変形が固定力を高める
原理は最も初期からの使用で充分にクライマ−は理解していたので
衝撃加重に耐える強度を、求めるピトンと、ある程度は強度を犠牲に
しても、ピトン自体の硬度を下げて、薄く製作する二つのタイプが要求
されて、目的別のピトンの開発が進展して行った。
まだ、スチ−ル鋼材から、クロモリへの発展段階だった頃。

鍛造スチ−ル製ピトンは主に、花崗岩・岩壁での使用に適し、熱処理
を施さないスチ−ル・ピトンは、石灰岩から花崗岩まで様々なタイプの
岩場で使用された。
伝統的な『軟質・ソフト・ソチ−ル製ロック・ピトン』の利点に関しては
硬質ピトンの普及が進んだので、ある意味で必要性が失われたとの
感もあるが、石灰岩での使用では、まだ幾つか軟質ピトン独特の利点
も残っているので、全てが消えることは無いと思われる。

『ロック・ピトン』がクライミングで必要とされてから、ピトンそのものの
改良と同時に、様々なタイプのハンマ−も誕生して行った。
頻繁にピトンを打ち込む、必要が無くなり出した時代から本質的にピトン
そのものを使わないスタイルでの、ハンマレス主義の流れの中でも欧州
でのアルパィン・クライミングの世界では、消極的なピトンの使用方法と
緊急時のピトン技術での用具のアィディアは、数多く誕生していた。

(右・図)も、専用のロック・ハンマ−を持たないアルパィン・クライミング
の現場で小さな、付属・補助具を使用して『アイス・アックス=ピッケル』
をハンマ−として使う為の『アィディア』用具の一つ。
実際に実用化されて、市販されたのかどうかは不明だが、面白い用具
ではあった。
板状のブレ−ド(刃)を持った各種の『ロック・ピトン』類
の中でも、カラビナを通す穴の部分に、工夫を凝らして
軽量化を計ったタイプが、この頃の最新モデルで重量
を減らす工夫と共に、ハンマ−打撃の集中をピトン自体
の中心線に合わせる、工夫も考えられていた。

同じ様なデザィンを採用しながら、単純にカラビナ・ホ−ル
部分を加えた、だけの物真似タイプの『ロック・ピトン』が
ほんの一時期・市販されたが最も打撃で強度が必要な
箇所が弱かったので、使用者は感覚的に、このタイプの
『偽物・パクリモノ』タイプの安価だったが、実用に耐えれ
なかった『ロック・ピトン』を使わなくなった。

俗に『顎部・アゴ』と呼ばれた「カラビナ・ホ−ル」部分に
強度があって、構造上もピトン刃の先端に向けて中心軸
が、まっすくで打撃力に無駄が生じない『兼用タイプ』の
ピトン類はフランス・シャモニ−の花崗岩で有効だった為
にガイドが利用する標準ピトンとして人気が高まった。
石灰岩・花崗岩の区別無く、初期の『ロック・ピトン』の形
や大きさでは、適合しない幅のクラックに使える各種ピトン
は、最も初期には平板・軟鉄製のロック・ピトンの金属刃の
厚みを、単純に増やしただけの物だったが、サイズや厚み
を増やすと、当然ながら重量は比例して増加して、その重
さが最大の欠点と考えられて、同じ幅広サイズにピトン重量
を必要以上は増やさずに、実用範囲で使えるタイプとして考案
製作されたのが、金属加工で『ピトン本体』に曲げ加工や凹部
で厚みを加えた『コの字』『Uノ字』型と呼ばれていたモデル。
氷河の硬雪壁やクレバス処理や突破の為の、必要技術を
基本的に必要としない「日本・国内」での登山・クライミング
環境では、欧州から入って来た氷雪・岩『兼用』と呼ばれる
事が多かった、本来は『岩用』のピトン類の正式・正統的な
使用方法は、少し変化して理解もされ、使い方にも特殊な
説明がなされていた。

クロモリ『アングル』に代表される、このサイズでは最も汎用性
が高く、強度面でも使い勝手でも古い、軟鉄製の重く、嵩張り
しかも強度が弱い『厚刃ピトン』を使用する、必要性は無くなった。
『U型・コノ字型』と、呼ばれる「ロック・ピトン」の多くは軟鉄製だが、特殊なモデルにはステンレスやクロモリ鋼材を採用して作り出された物も、僅かだが存在している。一般的に流通・市販されていたが最近では目にする事は無くなって、製造も停止した物が多い。『コノ字』タイプで国産品で80年代にクロモリ鋼材を使用で各種サイズ別にブレ−ド・タイプから最も多品種の『ロック・ピトン』を作り出していたメ−カ−品も消えているので、2000年・以降で、幅広クラック・サイズで使える国産のロック・ピトンは、ほんの僅かだろう。
岩用の「ロック・ピトン』も、20cm以上の長さを持っていた変形タイプ・特にリング付属のピトンは硬雪でも使えると言われて、兼用モデルが50年代から70年代まで幾つか登場していたが、基本的には氷雪・アイスでの
積極的な使用に耐えれる構造でも、機能も本来は持ち合わせてはいなかった。
ドロミテでのクライミングでは、クラシック・ル−ト意外でも、この『リング・ピトン』を頻繁に発見できる
古い『ヴィア・フェラ−タ・コ−ス』上でも、このカシンの『リング・ピトン』が鉄鎖や錆びたスチ−ル製
ワイヤ−の固定部に、数多く残されている箇所に遭遇する。
ロック・クライミングの歴史・経緯の中で、本格的な岩壁クライミングでの使用に耐え得る『ロック・ピトン』の発展・製作には19世紀の末から、20世紀にかけて使われた『ビルダ−』『ク−バレン』と呼ばれた最も原初的な『鉤型ピトン』から、『リング』を取り付けたピトン。そして、『フィ−ヒトル・ピトン』
が誕生していった。この頃の制作者・名や形状から呼ばれた『ピトン』は独語の『ハ−ケン』を冠して呼び習わされる事が通例だったが、ここでは英語圏で広く一般に認識・理解されていて現在の日本のクライミング情報でも、広く紹介されていて使用頻度が高い『ピトン』と表記している。
最新の硬鋼材『ロック・ピトン』にも、僅かな形状の類似点が見られる
ピトン本体が打ち込まれる、先端が細く薄くなっている形状上の特徴
は、非常に古くから採用されている『ロック・クライミング専用・ピトン』
の外見上の特徴で、先端部に向って、尖っている形状は古い形式の
『ロック・ピトン』ほど、その形状に端的に現れている。

細い、岩の割れ目は特に石灰岩などでは平行では無くて、不規則に
曲がり、素直な方向だけで打ち込めない場合も多く、割れ目の中で
金属板・状のピトンの刃の厚みが合致しても、他の面が素直に食い込
むとは限らない。また、穴状の幅も厚みも小さなクラックでは先端が大
きいと、上手く押し込む事ができない。
特に不安定な場所で、ピトンを片手で岩の割れ目に押し込む初期作業
時に、ピトン先端が尖っている事が押し込む労力を軽減さす。
テ−パ−状に先端部に向って刃部が、薄く尖っている形状はピトンを
割れ目に押し当ててから、ハンマ−の打撃力でスム−ズに食い込ませ
る合理的なデザインで、ピトンがクラック内部でもしっかりと、食い込み
固定され易い。特に材質的に岩の内部のクラック形状に、ある程度は
素直に曲がる・変形してくれる『軟鉄製』の『ロック・ピトン』の性能には
この流線型・先端が細くなっている形状は機能と合致していた。

回収は、特に岩の内部で変形し曲がる性質を持っていた『軟鉄』ピトン
では、非常に厄介で時として多大な労力と時間が必要。
初期からロック・クライミングでは打ち込んだ『ピトン』を残置しておくもの
では無くて、一度・岩に打ち込み使用したピトンを引き抜き(回収)して
再使用する方が、当時でも一般的な使い方。

この回収作業でも、ピトン構造として先端部が尖った形状の物は比較的
ハンマ−使用の、前後や左右の打撃で『ピトンの回収』が容易になる
利点が生まれる。クラック方向に沿って、ハンマ−でピトンを叩いて緩め
る事が出来るのは、この形状の『ロック・ピトン』の利点だった。

日本では、それほど頻繁に使用されたり残置を見る機会は多くは無かっ
たが『カシン』や『グリベル』製品が代表だった『リング・ピトン』も国産の
模倣品や類似品は、意外と多数・製造されて市販品の数も種類も多かっ
た時期があった。クロモリ・ピトンの中にも、この種のリングが取り付けら
れた『ロック・ピトン』を目にしたが、時代的には何故?と思うような物で
いつしか、どこでも見なくなってしまった。
このタイプのカラビナを複数、取り付けられる『ピトン』や『ボルト』の考案
製作は、日本独自のクライミング・スタイルと関係していて、人工登攀に
関しての大きな抵抗感や、大きな批判も無く、一般的に流行していて記録
情報を公開する『雑誌』等も、含めて今で言う『エイド・クライミング』が目的
や方法論とは別次元で、広くクライマ−に容認されていて『エイド』での
用具としてのみ、使い易い『クライミング・用具』としての『ピトン類』に注目
要求が高まったから、『リング・ボルト』や『リング・ピトン』等の他国では
徐々に歴史的な『クライミング・ギア』の発展からは、遅れ出して古くなり
だした用具が、日本では逆に使用者も範囲も広がり増加した。
日本オリジナルと称していたタイプ
の多くのピトン類にも、欧州メ−カ−
製造品のデザインを真似た物が多い。
1974年の「カタログ」でも紹介されていて、1940年頃から
広く、使われていた『GLEVER』の当時としては比較的・ピトン
自体のブレ−ド(刃)部分の厚みが、叩き上げられて薄いタイプ
は日本の岩場でも使い勝手が良かった。

これらの厚みが薄いタイプの『軟鉄ロック・ピトン』には熱処理
された硬め、やや強度が高まったタイプの物と、熱処理が施さ
れていないタイプの物が、あって日本で使い易いと思われて
いたタイプは、熱処理が施されていない軟鉄特有の性質を持っ
たクラックに食い込む時に、内部で変形・曲がりピトン自体の
支持力を発揮するタイプ。

途中までしか、叩き込めない場合の処置は、今現在の『クロモリ・ピトン』で使用する様なタイオフを使う事は、殆ど無くて(技術的には知られていた)梃子の原理を減らす為に、ピトンを加重方向に叩いて、曲げて使用する方法が一般的で、それに対応出来るピトンの材質が要求されていて本来は必要な『ピトン自体の必要強度』よりも、途中までしか入らない場合に便利と言う、理由が優先されていた。

良く考えれば、様々な状態のサイズが異なる自然の節理に
適合する『ピトン』を用意して、様々なクラック・サイズに対応
するピトン・サイズと使う、技術を磨けば良かったのだが金銭的
な理由が最大ではあったが、技術・指導面と情報面でも本来
の基本原則を正しく、紹介も公表もされなかった時期が長く続い
た。日本では、同時代的に考えると安価な『軟鉄製ロック・ピトン』全盛・時代が長かった。
その為、海外メ−カ−品でも俗に『兼用型』と呼ばれた縦クラックにも水平なクラックにも、どちらにも使えるタイプのピトンの使用者が多くて、教科書的な技術紹介でも『兼用タイプ』の利用
を薦めていたものが多かった。
(右・写真)のマルチとかユニバ−サルと呼ばれた兼用型を
代表する『ロック・ピトン』は国産と比べると、大抵は高価で普及
する以前に『クロモリ・ピトン』の優秀性と何度も再使用が可能
な利点と比較されて、、出番が少なかったタイプだが今現在の
クライミングでも、使い易いタイプとして日本以外での流通は絶えていない。
本格的な『ロック・クライミング』での、『ロック・ピトン』の使用に関しての記録を見るのは、1882年に行なわれたモンブラン山群のダンデ・ジュアンだと言われている。固定ロ−プの固定や、積極的なクライミング時の補助
に使用された、最も初期の『ロック・ピトン』は以降、論理面での長い論争の口火になった。
近代登山の発祥・以前の1492年・フランスのシャルル8世が待従ド・ポオブレに命令して、グルノ−ブル郊外の岩峰モンテ−ギニ−に登らせる時に「ピトン」が用いられたと、みなされているのが最初である。

1910年にオット・エルゾ−クによってカラビナが、ハンス・フィヒト−ルが現代的な『ロック・ピトン』の原形タイプ
として理解される、アゴやリングが付属した実用に耐え得る『ピトン』を考案して、ロ−プとカラビナを使用してピトンとの組み合わせによる『クライミング・システム』が完成したと考えられる。
墜落を停止させるロ−プを、より積極的にピトンとカラビナとの関連機能を高めて、困難な壁での領域を広げたのはハンス・デュルファ−に代表されるクライマ−達だが、ピトンに代表される各種の補助用具の使用に関しては、その使用に猛烈に抵抗し反対して、人工的な手段・用具の助け無に歴史の中に残る困難で厳しいクライミングを達成した人達も大勢いた。当時は、むしろ新しく発案・考案された、各種の用具を積極的に使用して新しい試みや活動に踏み出して行くクライマ−は少数派であった。ピトンはアイゼン(クランポウ)と同じく、誕生時から、しばらくは古典派から最も忌み嫌われ、否定された用具の代表格だったと言われている。
金属・特製として曲げ易く、形状を比較的・自由に造れる『軟鉄・ソフト・スチ−ル』製は鉄処理を施さないピトンの製造に適していて、様々なデザイン上の工夫で19世紀の末頃から20世紀まで実に多様・多種のピトンが生み出されてきた。ハンス・フィヒト−ル考案の最も初期の「基本形ピトン」には、アゴやリングが採用されていて、このタイプの『ロック・ピトン』から、次々に新しい工夫やデザイン上に特徴のある、ピトンが誕生して行った。

近代的な耐久強度を有した「ピトン・デザイン」では、採用されていないカラビナ・ホ−ルの大きなタイプは携帯にも便利で人工登攀での使用にも使い易いという理由で、一時期は国産品の中にも数多く、出回っていた種類だったが、穴が必要以上に大きいと墜落時の衝撃で過度の梃子作用が生じて、安全性が損なわれる事が実証されて、カラビナ・ホ−ルは徐々に小さくなって形状もカラビナ1枚が、簡単に取り付けられる丸い形状へと進化して行った。同じ様な理由と原理で、斜めに楕円形状に進化したタイプも同時期に増え出したが、『ナイフ・ブレ−ド』や『ロスト・アロ−』で見られる「カラビナ・ホ−ル」が現代では、標準的なタイプだ。

ピトンの構造上の違いで、縦・横・兼用の3種類の形状の違いが見られていた『ピトン・デザィン』に関しても、基本的に現在では『縦用ピトン』は、完全に時代遅れで、初期の『兼用型』として誕生したモデルの改良型の使用が現在では一般的だ。
1 国産の最もスタンダ−ド・タイプの軟鉄製ピトン
このタイプのピトンの中では、比較的、薄く造ら
れていて、渓谷(沢)などの日本特有の節理に
乏しい「岩場」で使用頻度が高い。
強度は、この種類のピトンの中では最も弱く
引き抜き後(回収)の再使用には適さない。
岩との接触点に「アゴ」を加えたタイプでクラック
の奥が短いと予測される、場合に使い易い。
1と同じく、エイド・クライミングでの使用や、間接
的に補助として使用するのに適したタイプ。
一般的に国産オリジナルの工夫とアイデイアで
普及したと言われている『ウェ−ブ・ハ−ケン』
ピトンの刃(ブレ−ド)部分に、岩との摩擦と接触
箇所を増やす為に、波状に浅い窪みを加えて
1よりも、少し幅の広がったクラックに適合。
軟鉄の特製で、強く叩き過ぎると変形するが
その特質を利用して、アゴ部が岩と接触しない
場合や、複雑な形状のクラックで意図的にピトン
を曲げて、衝撃で引き抜き方向に作用する力を
小さくしたり、梃子の原理を僅かながらも抑える
働きも工夫で、加える事ができる。
購入者・使用者は現在でも多い。
メインのクロモリ・ピトンと共に、補助的に使用し
たり、下降時の残置用として持参・用意する人
が多い。回収・使用は、条件により可能だが再
使用時には強度は低下している。
また、使用後は表面が傷付き「錆と腐食」の進行
が、早まるので注意すべきだ。
4 刃の長さを意図的に短くしたピトンだが、最近は
使われる事は少ない。
初期の単純な『形状のロック・ピトン』を長くして、引き抜き力に耐えようと刻み目を加えただけの硬雪用ピトン
11番〜14番は、国産のクロモリ・ピトン。形状・同種の小型ピトンに属する、タイプは『シヨップ・オリジナル』として数多く、流通。
(d−4番)は、同じく国産の、軟鉄製の縦型ピトンでカシン等の
初期の、鋳造タイプの形状に酷似しているが、改良が進み出し
た時期に、この種の今は見る機会が少なくなった変形モデルが
数多く、登場していた。
1964年に公開された当時の最新・資料で、紹介された国産『ロック・ピトン』の工夫
オリジナル・日本独自の工夫や個人の発案と頻繁に紹介され続けていたが、原形モデルは数十年も前に欧州モデルに全く、同じ物が考案・製造されて、実際のクライミングで使われていた。
『下・写真(左)』縦横・兼用型ピトンの改良・工夫から誕生した『アゴ部』が回転して使用するクラック方向に関係なく衝撃・加重が垂直に働く『カシン』のロック・ピトンで、この写真のタイプから後に幾つか改良品が生まれ
日本でも、国産品の全く同じデザインの模倣品が一時期・市販されていた。
1970年代には、円筒形タイプの『ペック・チヨック=スコットランド・タイプ』が、広範囲な場所で使われていた。日本でも馴染み深い『ロック・クラフト=ロイヤル・ロビンス著』の、1ペ−ジ、写真にも紹介されていて、最も初期の工業生産チヨックの一つだろう。『ペック』から、同時期に発売されていた円形チヨックとスタッキングさせて、使える軽合金製ロック・ピトンも、当時としては優秀な用具の一つ。

(下・写真2本)西部アルプス・石灰岩、岩壁での『エイド・クライミング』でも、岩質に適応した新しい『ロック・ピトン』は、時代の経過と共に変化していて、、クラックばかりではなく浸食系の岩壁に開いた『穴』に、打ち込むような非常に小さなサイズの『軟鉄製ピトン』も、古くから使用されていた。大きな衝撃・加重には全く、耐えれないタイプのピトン類だが、意外な程に『種類が多い』アブミをかけた後に、そのままアブミと共に、簡単に回収できた、そんな場面も記憶に残る特殊タイプだが、クラックに打たれているとピトンの全長は、判別できない。
日本の岩場には『国産の軟鉄製ピトン』の残置が圧倒的に多い。当たり前のことだが、そういった軟鉄製ピトンの金属・特製や多くのクライマ−が長年・酷使して来た時間を考えると『耐用年数とピトンの劣化・程度』は、そろそろ真剣に考えないと、あまりに危険が蓄積され続けていると思われる。

残置ピトン類の、見極めは個々のクライマ−の判断に任されているが、最近は『ピトン』を実際に使用したことの無い。ハンマ−を振った経験の無いクライマ−も、意外な程に多い。古いピトンを撤去して、新しいピトンに打ち替える労力もだが、自分のピトンを打ち残すかも疑問だ。
ボルト類への以降が、進むのかも知れないが・・・・