世間を騒がせた『ガケぷち犬の救助』報告
2000年7月14日(金曜日) 『讀賣新聞』
2000年7月16日(日曜日)  『奈良讀賣新聞』地域ニュ−ス記事
講習を終えて帰宅したのが夕方のTVニュ−ス時間帯だった。

前年に『バリアフリ−企画』で撮影を担当してくれたカメラマンが、関西枠での取材で映像が出ている『番組』を見ようとリモコンのスイッチを入れると、ニュ−スにしては、少し雰囲気の違う内容を感じた。

山中の壁が映っていて『ワンコ』の望遠での動きとかが出て来た。
最後のナレ−ション部分を少し、見ただけなので詳しい状況は解らなかったので、携帯に登録していた、取材している知り合いのカメラマンに電話してみた。

映像の最後に『Tカメラマンからの報告でした』と聞いたので現場にいるカメラマン氏と、電話が直ぐにつながり・現場の状況やニュ−ス内容も詳しく本人から聞くことが出来た。
たった一匹のワンコの救出が何故?
ニュ−ス番組で取り上げられているのかは
その時点では、理解するのは難しかった。
現地に滞在しているカメラマンとの電話での
会話の内容では、高さ50m以上の岩壁の上部
テラスかレッジ状の箇所に中型犬と見られる犬
が、少なくとも発見後5日間、身動きが取れずに
放置されていると言う。
救出作業を念頭に、地元・範囲の警察署・消防
関係者にや役場からも何度も、現地に人が来て
いるが、具体的な『救出・活動』は役場への発見
者からの通知後、何一つ行われていないらしか
った。
この国で゜は年間に人知れず隠された現場で罪のない
ワンコ達が『15万』と言う異常な数を公開されずに
殺害されている事を私は知っている。

虐待されている、そして動物愛護の言葉も無意味な
現実も知っている。たかが一匹のワンコの為に役所
や行政の役人達が何かを、犠牲にして助けに行くとは
思えなかったので、これは急いで助けに行くしか無いと
すぐさま判断して、必要と思われる各種『専用装備』を
パック類に詰め込み始めると、不測の事態を考えながら
用意・選択し出したクライミング・ギア類の多さに困って
しまった。これを私の250ccバイクの荷台に縛りつけて
ザックを背負っても、乗せ切らない。

しかし、装備類を減らすと現場で救出活動が安全に
行えるのかが解らない。
これは、装備の運搬だけでも誰かの手助けが必要だと
考えたので、すぐさま仲間の一人に手助けの要請を行った
予想はしていたが、たかが?ワンコぐらい?まあ、出ては
くれない。仕方ないのでクライミング講習や私の企画でも
バリアフリ−・プランに息子・家族参加の経験も多くて
愛犬家・ワンコペ−ジも楽しいHPを公開しているK氏に
急遽・電話を入れてみた。

役立つならば、と快諾を得て。
今夜中に出発して、すぐさま救出活動を行いたいとの考え
を伝えて、車で迎えに来て貰う事にする。
これで、絶対に壁から助け出せる『装備・用具』の運搬の
メドが、たったので余分とは思われたが現場での作業に
使うかも知れない電動ドリルやボルト類。ケ−ブル利用時
を想定して大量のロ−プやプ−リ-もパッキングしておいた。
救助作業や本当の、現場での搬出を経験していない、うえ
にクライミング講習にも、あまり積極的に参加しないK氏に
関しては、何とか安全だけは守らなければと・・・・
プレッシャ−が幾重にも、重なり出した・・・・
迎えの車に装備を急ぎ積み込み、深夜の高速を急いで室尾の現場へと急ぐ、車中で関係していそうなマスコミ関係の知り合いに、かたっぱしから電話を入れると、私が予想していた、地域の小さな『ニュ−ス枠』の事件として取り扱われている訳ではなくて、明日の朝は『現場』に、かなり多くの取材陣やカメラマン達が
押し寄せる事を知った。

正直・これは、万一『救助・活動中』に何かのアクシデントで失敗したら、考えたくも無かったが岩壁から、私達の接近や活動に、驚いた犬が落下しでも、したら・・・『全国・放映』の映像は、非難ゴウゴウこれは、ガイド゜廃業も覚悟しないと深入り出来ないと・・・・
それでも、助けないと・・・・『時間は残り少なそう』だ。覚悟は簡単。

遠い昔に北の辺境地で、彼らには随分と助けられた
ペットとして、愛玩動物として見ている人達が殆どなのだが私は、少し彼らとの関係や想いは違う。
『仲間を見捨てては、男がスタル』プロガイドが壁のワンコ一匹を助けられなくて、エラソウにクライミング講習の生徒さん達にも、顔向けが出来ない。

最悪のパタ−ンは、絶対に起こさないと自分を信じたので現場に到着した時には、完全にヤル気が充実。
さあ、夜明けと共に壁へ入るぞ。
帰宅した夜の『ニュ−ス』には特別枠での
映像で『ガケブチ犬・救出』が出ていた。
ニュ−ス終了後には何人もの人達から電話
が相次ぎ。講習生達は、やっぱりね。
舟橋さん・らしいと思ったとか。
以前のニュ−スを見て、私が出れば
良いと思って、いたとか言ってくれる。
期待を裏切らなかったのは、幸い。
しばらくの間は、近所のス−パ−マ−ケットの店内で買い物をしていても、見知らぬ『多分・愛犬家』の方達から、何かしら声を・掛けられては、お褒めの言葉を頂戴しては恥かしかった。

中には、半年・以上も経ってから郵送・郵便で『ニュ−ス映像』での救出・活動に関しての感想や、自分たちも犬の安否に心痛めていた心情などと、救出を喜ぶ感謝の手紙や、お礼状を頂戴して恐縮していた。
私の山仲間や、しばらく音信が途絶えていたクライミング関係の知人からも、テレビ・ニュ−スを見たとの連絡が、その後も数多く続いた。

私のガイド・プランやクライミング講習の参加者からは、私らしい・そういった声が多かった。

お節介は得意系だからと、毎度の事ながら、この件に関して騒がれるのにも疲れだしたのに、凝りもせずに『再現・映像の番組』で、同じ様な話題を再び、仲間達にも提供してしまった。

これに関しては『内容は完全なヤラセ』範囲の、視聴率さえ稼げれば感覚の、テレビ番組の見本だったので、放送内容の中で『奈良山岳会メンバ-』に、対して大変・失礼な映像や発言部分があって、私に直接の責任は無いとは言え、大変・申し訳ないと感じています。
私も、馬鹿な事に『現場』での映像製作の段階を理解していなかったので・・・この種類の『映像』は自由に前後であろうと、切り分けであろうと制作者の自由に『映像・加工』が、行えるのだが当時は、そこまで気が回らなかった。


担当者に言われるままに、当時は、そんな現実は無かったのに岩壁部のトラバ−ス箇所で、スリップ演技まで、してしまった。恥かしい限りではある。この、経験のお陰で、以降のテレビ関係のガイド業務や出演依頼に関しては、かなり慎重にもなったし、注意深くはなれた。
奈良県からの『動物愛護・関係の表彰』これは、さすがに私には恥かし過ぎるので一緒に救出に、誘った方は式に出席したが
私は、当然ながら出る事は、しなかった。
民間の何か『動物愛護・団体』関係からも、似た様な、晴れがましい招待を頂いたが、これも当然ながら私には似つかわしくも無ければ、意味もないと、申し訳ないが山に行っている間は無視してしまった。関係者の方・ごめんなさい。
『壁』から、助け出せた当のワンコの名前は『リキ』と言う。

無事に、獣医さんの手当てを受けて、翌日には地元の飼い主さんの元に引き取られて、日常の生活に戻ったと地元新聞社の記者からの連絡を聞いた。

里親希望の問合わせや、希望者が役場に数多く、寄せられていたとも聞いていた。
彼が、その後『家出』・脱走せずに平穏な暮らしで、ワンコらしく暮らせているのかを私は知らない。

飼い主の方からは、一度・お礼としてだろう『猟の成果だろうと見られる獣肉が、パックされて』私の元に届いた。


多くは、語れない。命は、助けてあげられた。
:現場までの車中では、喋らなかったが。

この救出活動での失敗は、マスコミが数多く見守る環境下での、活動となりそうなので私には、失敗は痛い結果となるだろうとの予測は正直、嫌なプレッシャ-だった。

マスコミ・特にテレビ・カメラを向けられるのは、職業柄、慣れていると思われているが実際は嫌いな事の筆頭だから。震災後の活動では、約半年という長い時間・期間を目立たぬ様に、ひたすらカメラの視線から、逃げ回っていた。

夜明けを待って、現場へ入り。壁の中に取り残されていると言う「わんこ」を、可能な限り素早く救出して下降。仲間は大の愛犬家なので、救出後の獣医さんへの連絡から、その後の里親探しまで、話しは進んでいた。

しかし、現場に到着して車を岩壁部が木々の間から見え隠れする、舗装林道・上に止めて用具類の準備を始めようかと、思っていると現地・役場から来ていた男性に声を、かけられ『救出・活動に、加わるならば後発して来る人達』と、行動を共にして下さい。

そういった意味の事を告げられる。仕方無に、無為な時間を過ごす。車道下への階段を降りると、岩壁中の「わんこ」は私達の存在に気が付き、悲しそうな泣き声を発して来た。これには、心・揺さぶられるものがあった。

誰を、待っていれば良いのかが釈然としない時間は長くて、不満は大きかったが現地の役所関係からの要請・要望との事なので、無視して勝手に御神体とも、なっているらしい岩壁に入って良いものか、どうかも判断できなかったので徐々に見物人やマスコミ関係者の車が周囲に集まり出して、私達にも質問して来る人が増え出してイライラが募っても救出に出る事は適わず、少しばかり腹立たしくなって来た頃、やっと役場の担当者らしき人が上がって来て、地元『奈良県』の山岳会メンバ-が集まるので、合同で救出活動に加わって欲しいとの要請を受けた。
それから再び、待機時間が過ぎて。日も上がり周囲には警察の車からテレビ局の関係者。見物人らしい大勢の人達が集まり出して、賑やかになって嫌でも私達は目立つ立場になっても役場からの詳しい指示や連絡は入らなかった。朝一に私達に、待機を伝えた人は、街に戻っていたので詳細を現場で聞く人が、いなくなっていた。電話番号も知らないので『役場か担当機関』に問合わせの電話を、かける事も出来ない。イライラした気分に「わんこ」の泣き声が、悲痛なので更に気分が滅入ってしまう。

やっと、役所の広報車のような車が上がって来て、後続車両には登山の服装の人達が5人?6人その中の年配者には、顔見知りがいた。
奈良山岳会のメンバ-が、地元『役所』からの連絡で急遽、有志を集めて現場に到着した事を知った。会長さんとは、20年来の顔見知りで、他のメンバ-も私の事は知っている様子なので役場の担当者が撮影したヘリコプタ-からの空撮写真で「岩場」に向う、弱点となる側壁・斜面や機材を歩いて運び上げれそうなル−ト取りを、事前に判断する。

『奈良山岳会』からは、ル−ト選定の相談の際に、私がチ−ム編成時のリ−ダ-として現場での救出作業を率いて良いとの了承を得られたので、双方が持ち込んだ装備・用具類を大まかに選択して、すぐさま活動に入る事とした。役場(役所)の担当者も数名、作業に加わりたいとの申し出を受けたので、その中の山岳部・経験者の方ならば同行を許可した。この時も、人の世話も合わせると面倒が増えたなと感じたが、失礼なので文句も言えない。
数多くの『山岳会』や『クライミング関係のグル−プ』が存在する中で、TVニュ−スを見たのか役所からの支援ボランテイア要請だったのかは、別にして現場に駆けつけたのは私達2人と、奈良山岳会の数人のメンバ-だけと言うのも、ある意味で、とても寂しい現実。まあ、普通に考えれば?たかが・・?「ワンコ一匹」生き様が、死のうが関係ないよ。その程度の話題なのかも知れないが。

だから、こそ『無償の行為』で、現場で出会った
『地元・奈良山岳会』は素敵だ。


そして、顔見知りだと言う点と、私がプロのガイドだと言う、信用で現場での活動方針やル−ト選択の決定権を、快く譲ってくれた「『山岳会・会長』の判断にも、感謝すべきです。

大体、年長者の山岳会の会長さんクラスと、なると、この種類の現場での『見栄とか、役に立たない年功序列・的なプライド』を振りかざす御仁が、やたらと多い世界なので、今回は非常に幸運だった、と言えるでしょう。

私にとって、ではなくワンコに、とって。
おかげで効率良く『岩壁部』へ入る、アプロ−チを私の『ヤマカン』で100%ばっちり、短時間で選択・進行できたので予定よりも、救助活動の手間が、省けるポィントに出られて、危険率も減らせた。
私以外の「救出メンバ-」は、岩壁部・終了点の潅木帯の杉木からロ−プ固定で、下降して「わんこ」が立ち往生している、レッジかバンド部分に降りて救助活動を行う、考えのようだったが、真上からの下降は『意思疎通』が困難なワンコで、驚かす事による最悪のパタ−ンを考慮するならば、最良の選択肢とは思えなかった。

私は岩壁部の空撮『写真』で、ある程度の見当を付けていた、岩壁部・上段の「ワンコ・位置」に並行して繋がる様子を見ていた、切れ切れのバンド状・箇所からの、接近を林道からのスタ−ト時に考えていた。その考えをマスコミ関係者や役場が、準備・待機させた獣医らしき担当者に伝えては、いなかったので下で見ていた人達には、最初の私の行動は理解し難かったろう。
岩壁部は、こんな場所にと・思うほど大きかった。
下部には滑滝を配置して岩場の基部には、しめ縄が張られた「洞窟」が、御神体として対岸の「祠」と、共に、人の立ち入りを拒んでいる。

丁度、その御神体の『洞窟』から垂直に40mほどの地点が、岩壁部の左端で落葉の積み重なったテラスから、ワンコの立ち往生している狭いレッジ部まで支点を適当に、立木や潅木にとってトラバ−スで進入が、可能そうなので私がロ−プを3本、引きづり、ギア類を持って救助活動を開始。

一部・泥と脆い岩の部分で、ル−ト開拓を思い出すハンマ-を振っての作業で、ワンコ左横2mの位置の足場に立ってから、まずはワンコを安心させる為に手を差し出して、舐めさせ・匂いを、かがせた。
ボルト・キットを補助ロ−プで手繰り寄せて、まずは安定した『確保支点・を設置』岩質は、柔らかいので多めにボルトを打ち込んで、後続の二人を確保して引き寄せた。
奈良山岳会からは、会長さん自らが作業に参加で、後の一人は私の同行者で、ワンコの気持ちは判るだろうと期待したK氏。

彼には私の特大ホ−ル・バックと、ワンコを固定さす為の、引き輪の付いた手棒も1本、持って来て貰う。そっと目を見ながら、声を、かけると暴れる雰囲気は感じなかったので、少しばかり安心でき、ワンコの首に固定・輪をかけてから、レッジの不安定な部分に、私が乗り出して背中の空間に、嫌な感覚を覚えながら、ワンコが暴れるなと祈りながら彼を、しっかりと両手で抱き上げた。

本人も、助けに来ている私の気持ちが通じたのか、大人しく、身を任せてくれているので、後の二人に手伝って貰ってバッグの中に素早く、ワンコを滑り込ませて「スプレ−スカ−ト」を占め閉じれば、一安心。

パックの中で暴れまわっているワンコの事は、今はドウシヨウモナイので・さっさっと、最初に来たトラバ−ス箇所を撤収だ。最後備は、私が担当してスリング類などを、大量に回収してテラスに戻る。
『実質的な救助活動』は、ここで終わっているが、車道までワンコを連れ帰るのが私達の役目。細い水流を渡って、役場の人間やマスコミ・見物人で混雑する『祠』を割愛して、車道への急傾斜・斜面からガ−ドレ−ルを跨げば、後は役場・保険所の管轄となった。何か、少しばかり複雑で、大丈夫だろうか?・そんな感触を抱いたが、ここでは私達の発言権は、もう無いので帰り支度を始める。

役場の方へ立ち寄って、との御依頼なので、役場に入ると実況でも聞いていたのか『内部の人達』から拍手で出迎えられた。役所とかの中で、少しばかり面白い経験とは、なった『場所』を変えて、昼食を御馳走になって、思わぬ時間が必要だった一日を終える為に自宅への道を急いだ。

助けられて良かったと思う。
ある意味で人の救出活動よりも、入るまでの緊張感には厳しいものがあった。
ワンコ達との過去の生活を、想い出していた。
子供の頃に、一緒に過ごしていたワンコの笑顔を
想い出した。スコットランドで、世話になったワンコ達の記憶も、僅かだが甦った。達成感を感じた。小さくとも、動物でも
精一杯に生きる、努力と死に対して戦う、努力は感動ものだ。クライマ−としての能力が役立つ、誇りも感じた。
現場に来て、良かったと思えた。
『何故?犬が岩壁の中に』
この質問を、様々な場所で数多くの人達から聞かれて
いるのですが、結論から書けば。実は、現場を知っている私にも、何故なのかは判りません。

現場での『救出活動』で、最もワンコの傍まで近寄り
周囲の状態も、自分達とワンコの安全を確保する為に
細心の注意で、観察していた私ですが『ワンコ』が、動けずにいた狭いレッジ部分の幅は、わずかで。その位置までワンコが無理に潅木・植林の斜面から、どうやって移動したのかは、謎のままです。

上部から、何らかの理由で転落、墜落して現場・位置まで落ちて来たのでは、との意見は聞きますが、現実的には無傷で停止するとは思えない場所でしたし、獣医さんの診察でも、目立った外傷は見受けられないとの事でしたから、落下・墜落で運良く止まったと言う考え方には、無理があります。

猟犬としての訓練を受けていた『ワンコ』なので、何かの獣を追いかけて、岩壁部の上部まで上がって来たのかも知れませんが、壁の中にいた事は、やはり不思議です。
あまりに、TVや新聞が『美談風』に、取り上げるのでこれで、また・関西範囲のクライマ-集団の中で、30年前の様に、売名行為とか言われそうだなと思ったが、幸いな事に30年間で、更に打たれ強く、なっている自分を信じられるので、気楽に考えていた。
やっぱり・な、と思う輩は、やはり・いたが。
こういった・お節介は我家の家風らしい・・・・・
娘が、心配ではあるな・・・・・
『再現・映像』世界・仰天ニュ−ス